「今後の労働時間制度に関する研究会」の報告書・3

「今後の労働時間制度に関する研究会」の報告の続き
報告は3項目に分かれ、初めに「T:現状認識と今後の展望」があり、次に「U:見直しの方向性」、最後に「V:新たな労働時間制度の在り方」という構成になっています。
ここではVの「新たな労働時間制度の在り方」についての報告を紹介します。

「新たな労働時間制度の在り方」は、二つに分かれ、一つ目に仕事と生活との調和の観点、二つ目に賃金などの評価を労働時間の長さではなく業務成果や能力による方が適している場合の制度について述べています。

1:仕事と生活の調和の観点からは、「生活時間を確保しつつ仕事と生活を調和させて働くことを実現するための見直し」という見出しで、年次有給休暇、時間外・休日労働、フレックスタイム制、事業場外みなしを取り上げ、現状の見直しの方向性を提言しています。順次見てゆきます。

年次有給休暇
取得率の低下と取得をためらわせる原因が、休暇取得を労働者に任せている点にあると考え、休暇取得の方法を検討する必要があるとしています。その方法として諸外国を参考に次のような例を挙げています。
使用者が労働者の希望を踏まえながら、あらかじめ具体的な取得日を決定しておく方法。
1週間程度以上の連続休暇を計画的に取得させる方法。
取得率の低い者に対しては、取得計画を作成させるなど計画的な取得を実行させる方法。
これらの方法に、取得を義務付けるなど休暇取得を確実にする手段を考えることに加えて、取得方法についても弾力的な運用に対応できるよう求めています。
たとえば通院、子供の急な送り迎え、親の介護など突然の用事が発生した場合などには、年次有給休暇を時間単位で取得できるような労使双方の協議による可能性を考えることなどです。
どうしても年休未消化が発生する場合には、退職時に年休の手当換算と清算する仕組みづくりも検討できる。
時間外・休日労働
労働からの解放は労働者の健康確保にとって最重要のポイントです。そこで健康確保の観点から次のような方法の検討を報告しています。
時間外労働が一定時間を超えた場合には、割増賃金だけでなく時間数に応じた労働免除を義務付ける方法。
一定時間を超えた時間外労働には、割増賃金の割増率を高くする方法。
現行の協定に基づかないで法定労働時間を超える労働には、使用者に対し罰則の強化を検討する。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は中小企業を中心に導入が進んでいないが、いったん導入された企業の労働者は積極的に利用する傾向にあるので、導入の促進を図るため成功事例の提供など各種広報活動が必要である。また、フレックスタイム制における時間外労働となる時間計算などは、実態に即した見直しなどが必要だと考えられる。
事業場外みなし
現行制度では、事業場外労務に従事する労務者に対して、所定労働時間を超える場合に限り、事業場内での勤務時間を前提とした運用となっているが、これらは見直しの必要がある。

2:賃金などの評価を労働時間の長さではなく業務成果や能力による方が適している場合の制度は、「自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者のための制度」と題し、検討の視点、新しい自律的な労働時間制度の要件、法的効果のほか、健康確保措置、労使の協議の役割、適正な運用の確保、現行制度との関係が報告されていますので、ポイントを紹介します。なお、最後の現行制度との関係において「管理監督者との関係」が述べられています。
(1)検討の視点
個々の労働者の能力が発揮されるシステムを準備することによって、労働者の能力発揮が促され、結果として日本経済と社会発展に資することになるという観点からの制度作りを考えます。そのために大切なことは、労働者本人が労働時間の規制から解放されることによって、労働が自由で弾力的になること、またその方が自分の能力がより発揮できると思われる場合には、そういった制度を選べるシステムを作ることである、と述べています。
このような制度を新たに設計するに際しては、結果として過重労働が増える事態にならないような配慮が必要であることは、労働者の心身の健康確保が労働者の能力発揮の前提なので当然のことです。
なお、米国におけるホワイトカラー・エグゼンプションの導入に関しては、日米間の労働事情の差異からそのままの制度での導入は適当ではない。
(2)新しい自律的な労働時間制度の要件
このような制度を設計するに際しての要件として、勤務態様要件と本人要件を考え、その他健康確保措置、導入における労使双方の協議に基づく合意などをあげています。
勤務態様の要件としては、職務遂行の方法や労働の時間配分について、使用者から具体的な指示を受けないこと、かつ労働者本人の業務量につき裁量があること。さらに賃金評価は、労働時間の長短ではなく労働成果や労働能力に応じて決定されること、をあげています。
本人要件としては、年収が一定水準以上の額が確保されていることと、労働者本人の同意をあげています。
一定水準以上の年収額を確保する必要がある理由は、本人の同意が真意によるもので、労働時間規制の保護がなくても自律的に働き方を決められると考えるための重要な要素になるからです。そして年収の額については、通常の労働時間の管理の下にがおける労働者の年間給与総額を下回らないことが通常だと考えています。
そのほか健康確保措置と労使双方の合意がありますが、これら要件の定め方についてもいくつかの注意点に触れています。
たとえばこれらの要件の定め方については、法令に詳細を定めて対象労働者の範囲を画一的に規定するか、あるいは法令には基本的な要件だけにとどめ、対象労働者の範囲は労使双方で合意により決めることを認めるか、等の考えがあります。
また年収要件において、極めて高額な額が保証される場合は、使用者に対する交渉力や働き方の自律性の点で相当程度高いものが考えられるので、労使双方の合意要件は必ずしも必要ではないとも考えられる。その他事務系職、技術系職との違いの考慮や、労働時間の長短が業務成果の大小につながる業務などの存在もあるので、新しい制度にはふさわしくない業務のリスト化も検討しなくてはならない。
この報告において、新しい労働時間制度を選択する方がふさわしい労働者の具体的なイメージとして、次のような労働者を例示しています。
企業における中堅の幹部候補者で、管理監督者の手前に位置するもの
企業における研究開発部門のプロジェクトチームのリーダー
(3)法的効果
新しい労働時間制度を利用する対象労働者には、次のような規定の適用除外が考えられる。
労働基準法4章、6章及び6章の2に規定する労働時間及び休憩に関する規定。
深夜業に関する規定(健康確保のための適切な措置がとられていることが前提です)。
労働基準法35条(法定休日)の規定については、新しい制度のもとでは適用除外はしないことも考えられる。休日確保の実効性を確保する必要もあるからです。
もちろん各企業の実態等に応じて、労使双方の合意で適用除外の規定を選択できるような仕組みにすることも考えられます。
(4)健康確保措置
健康状況のチェック等:何らかの健康確保措置の義務付け、実施状況の記録、保管、行政官庁への報告の義務付け、またその担保として罰則を科すなどが考えられる。健康確保措置の実際は、定期的な健康状況のチェックと必要に応じた適切な措置を講じることなどを想定している。また健康確保措置の履行状況を労使双方がチェックできる仕組みを考えることも必要で、この仕組みの中には対象労働者がこの制度を利用したくない旨の申出があった場合には、本人の申し出によって通常の労働時間管理に戻すことができる方法も組み入れることが必要だとしています。
さらに健康確保措置の実施状況によっては、この制度が適正に運用できないと判断される場合の対応も検討されなければならない。たとえば、当該企業の制度取り扱いを認めないこと、制度利用の労働者全員を通常の労働時間管理に戻すこと、使用者に対し年収額の一定割合の支払いを義務づけることなど。
休日の確保:この制度においては、心身の健康確保にとって休日の取得が一層重要となるので、通常以上の休日取得を考えなければならない。たとえば、労働基準法35条の法定休日に加え一定日数以上の休日取得、一定日数の連続取得、あらかじめ個々の労働協約で休日数を定めることなど。
休日の確保措置の実施状況によっては、この制度が適正に運用できないと判断される場合の対応も検討されなければならないが、この点は健康状況のチェック等の実施が提携に運用できない場合と同じ対応が考えられる。
(5)労使の協議の役割
労使の協議の具体的なあり方は、現行制度における協議方法も含めて検討する必要があるが、この協議が具体的な条件確定の場となるので、労働者の意見の適正な集約と労働者側の交渉力を補完することが実質的に対等な立場での協議となる。それによってはじめてこの制度の有効性が担保されると考える。
(6)適正な運用の確保
苦情処理措置:現行の裁量労働制の運用実態と問題点を踏まえて、改善等見直しの方向に沿った検討をすること。
要件・手続に違背があった場合の取扱い:当面は労働基準法32条等違反の問題として整理するのが適当だと考えられるが、この制度は実労働時間を把握しない制度なので、独自の法的効果を定めることも考えられる。
履行確保のための行政の役割:行政官庁は、新しい自律的な労働時間制度が企業で導入される手続きの段階から、その適正な手続きの確認、健康確保措置の実施状況や、対象労働者の休日取得状況などを書面等で確認、把握できることが必要で、適切な運用が行われていないと判断される場合には、改善要求や制度廃止を含めた措置を講じることができる仕組みを検討する必要がある。
(7)現行制度との関係
現行裁量制との関係:
現行の企画業務型裁量労働制と新しい自律的な労働時間制度との関係では、制度目的と対象労働者が重なるので、廃止することも考えられるが、現在の運用状況をチェックし問題点だけの改善を図って存続維持することも考えられる。
現行の専門業務型裁量労働制と新しい自律的な労働時間制度との関係では、現在の専門業務型裁量労働制の下における労働者の多くは、新しい自律的な労働時間制度とは異なる要件の下で適用を受けているので、必要な改善を行った上で現行制度の維持を考えることが適当である。
管理監督者との関係:
現行の管理監督者の本来の制度趣旨と運用の実態を踏まえ、新しい自律的な労働時間制度を設計するにあたっては、対象となる管理者の要件の明確化、適正化を図ることが必要である。
たとえば、現行の管理監督者とされるスタッフ職のうち、新しい自律的な労働時間制度の対象労働者とされる場合には、管理監督者から新制度の適用を受ける労働者として、円滑な移行ができるよう整備が必要である。
新しい自律的な労働時間制度における適正な取り扱いを確保するためには、その範囲を各事業所ごとに賃金台帳などにより明らかにしておくことなどが考えられる。
新しい自律的な労働時間制度の下でも、深夜業に関する規定が適用除外とされることが考えられるが、現行の管理監督者の健康確保措置の在り方についての検討も必要である。
現行の管理監督者の労働条件決定については、対象となる管理監督者の意向が反映される仕組みも検討される必要がある。

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