労働基準法41条の解釈

名ばかり管理職の条文上のよりどころとして労働基準法をみてみましょう。
労働基準法第41条は(労働時間等に関する規定の適用除外)として次のように定めています。
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

41条で言っていることは、1号から3号に該当する労働者には本法の第4章、第6章、第6章の2の規定を適用しない、ということです。第4章、第6章、第6章の2の規定というのは、労働時間、休憩、休日に関するものです。つまり、41条1〜3号にあたる労働者には労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されないというものです。くだけた言い方をすれば、41条1〜3号のどれかに属する労働者であると認定されれば、労働時間の枠がなくなりどんなに長い時間働いても割増賃金(第4章第37条)の支払いはありませんし、休憩時間(34条など)が付与されなくても使用者に罰則規定は適用されず、また休日(35条など)も全くないという例も極端にいえばありうることとなります。

そこで、41条の1号から3号に当たる労働者の範囲を明確にすることが主要なテーマになりますが、本題に入る前に、条文に関する周辺の争点に触れておきます。
年次有給休暇も適用されないかについて。
ここでは年次有給休暇については何も触れていないので、年次有給休暇については1〜3号にあたる労働者でも適用されると解釈されています。
労働時間のうち深夜に及ぶ場合については適用があるかについて。
深夜に及ぶ業務についても規定は明確ではありませんが、第4章(37条)第6章(61条)第6章の2(64条の3)でも適用除外にはあたらないと考えられています。そもそも労働基準法が適用されないという41条の範囲の解釈は限定的になされるべきであるということと、深夜業務は一般的な労働時間超過とはちがう側面を持つことなどから、4章、6章、6章の2の規定でも適用されるというものです。この点について行政解釈も、深夜業に関する規定は41条にいう適用除外には当たらないという見解を出しています。

名ばかり管理職の問題で争点となるのは、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない41条の1〜3号に該当する労働者について、特に2号の「監督若しくは管理の地位にある者」かどうかの判定に関する点にあります。普通「管理監督者」と呼ばれる者の解釈と、具体的事例における勤務の実態が肩書名称とはかかわりなく「管理監督者」と言えるかどうかの認定が中心となります。
そこで、これから多くの判例を挙げながら具体的事例を掲載してゆきますが、その前に41条2号に当たる労働者の範囲について一般的な解釈を見ておくこととします。
念のため、1号の労働者は、労働基準法8条6号、7号の事業に従事する者ですから、農林業、畜産、養蚕、水産業に従事する労働者を指し、3号の労働者は、「監視又は断続的労働に従事する者」です。それぞれ対象となる労働者の範囲について争われる点もあり、立法論上の問題も検討すべき点があります。ここでは3号のいわゆる「名ばかり管理職」について紹介してゆきますので、これらの点については機会を見て適切な箇所で触れてみたいと思います。

41条2号にいう労働者の範囲について。
41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」は、一般に「管理監督者」と呼ばれ、これからも管理監督者という呼び方で頻繁に登場することになりますので、「管理監督者」とある場合は労働基準法41条2号の労働者についての話であると関連付けてみてください。
41条2号の労働者の範囲を明らかにするのは、1号、3号に比べるとはるかに難しい作業です。
それは「監理監督者」という意味内容が不明確であること、労働基準法その他の法規にも定義する規定がないこと、行政官庁で管理監督者として許可する制度になっていないこと、などからです。そのため行政解釈を参考にすること、多くの具体的事例についての裁判所の判断を参考にすることが不可欠となります。

行政解釈では。
行政からは管理監督者の範囲についての原則解釈が示されており、そのうえで細かな判断基準を示した通達が出されています。
管理監督者にあたる者の一般原則として、「職制上の役付者のうち労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を越えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」」としています。
そのうえで、実際の判断にあたって勘案すべき具体的な判断基準を次のような例で示しました。
資格、職位の名称ではなく、職務内容、責任と権限、勤務内容に着目する必要があること。
役付者の賃金等の待遇面に留意すること。待遇面では基本給、役付手当等で管理監督者としての地位にふさわしい待遇か、また賞与など一時金の支給率やその算定基礎賃金等についても一般労働者と比べて優遇措置がとられているかなどが示されました。
企業側が任命する管理者すべてが管理監督者だというわけではなく、一般原則に照らし具体的基準を考慮して判断するという考えです。
「機密の事務を取り扱う者」の解釈も通達があり、「秘書その他職務が経営者または監督もしくは管理の地位にある者と一体不可分であって厳密な時間管理になじまない者」であるとしています。
管理監督者の範囲については、特に都市銀行の管理監督者の範囲を具体的に指示しています。これは実際の紛争が都市銀行等で多発したために労働省が実態調査のうえでより具体的に示したものです。それによると、次のものは「管理監督者」の範囲内に入るとされます。
1、取締役等役員を兼務する者
2、支店長、事務所長等事業場の長
3、本部の部長等で経営者に直属する組織の長
4、本部の課またはこれに準ずる組織の長
5、大規模の支店または事務所の部、課等の組織の長で、1〜4の者と銀行内において同格以上に位置づけられている者
6、1〜4の者と同格以上に位置づけられている者であって、1〜3の者などを補佐、代行、代決する権限を持つ者
7、1〜4の者と同格以上に位置づけられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者(スタッフ)

判例上からは。
これから41条2号にあたる管理監督者かどうかが争点になった判例の代表的なものや重要なものを紹介するわけですが、ここでは判例の立場の概略だけまとめておきます。詳細は個々の具体例で見てゆくことにしましょう。
判例の具体的判断は、行政上の解釈から大きくずれてはいません。
静岡銀行事件(静岡地裁判決、昭和53年)では、労働基準法41条2号にいう「管理監督者」を次のように解釈しています。
「経営方針の決定に参画しあるいは労務管理上の指揮権限を有する等、その実態からみて経営者と一体的な立場にあり、出勤退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を持つ者」という一般原則を示しました。
そのうえで具体的な実態を認定しながら判断してゆくこととなります。

立法趣旨と立法論上の問題点について。
管理監督者を労働時間、休憩、休日の規定の制約から外した理由は、労働基準局の説明によると、管理監督者は事業経営の管理者的立場にある者(またはこれと一体をなす者)で、労働時間の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要が認められるためだとされています。
名ばかり管理職の問題は、管理監督者の範囲の問題ですが、管理監督者であっても労働基準法の適用を考慮すべきという流れがあります。
立法論としては社会事情の変化を勘案する必要があります。企業活動が時代とともに変化し、グローバル化の進展などもあり、管理監督者だからといっても時間管理の自由裁量の範囲には変化が見えることに注意しておく必要があります。社内外の技術革新と合理化の追求は地球規模で見られる傾向であり、時間管理は管理監督者でさえ自由裁量の範囲は少なくなっています。立法論上からはますます厳しく管理される管理監督者にも、労働基準法の適用があることを原則にすることを前提とし、そのうえで具体的事例を例外扱いとする形にすることが現状に即した対応ではないかという考え方です。
それでは具体的事例を参照しながら、事実、判旨、判決の意義等を見ながら今後に向けた解決の糸口を探っていくこととします。

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